「ゴジラ」とその時代ゴジラ誕生の秘密③　　　名前当てゲームのヒントです

「ゴジラ」とその時代　第３回ゴジラ誕生の秘密③ ジーラ・モンスター

日本が生んだ世界的スーパースターの「ゴジラ」が如何にして誕生したのか、その源泉と思われる物語は香山滋の「ジーラ・モンスター」だった？

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昭和29年５月、東宝の文芸部長森栄晃(もりえいこう) は講談社資料室で発掘した香山滋(かやましげる) の作品で、昭和27年に少年向けの雑誌探偵王3月号に掲載された「ジーラ・モンスター」に注目する。その内容は・・・

メキシコとアリゾナの国境の町エル・ポンテとジーラ河をへだてて聳え立つ休火山モンテ・エスカルゴが、長い眠りから覚めて深夜突如大爆発した。これを見たインディアンの老女は「ジーラ・モンスター！」という謎の言葉を残し姿を消した。噴火の山火事が消えた頃、少年農園主の山根譲治(やまねじょうじ) は水車小屋の娘マフラの父親が殺されたという報せに衝撃を受ける。父親ジョーの遺体は片腕を引きちぎられ頭を打ち砕かれてジーラ河に半身が浸かっていた。

悲劇は続き、次は酒場の踊り子サリーが胸を怪力で押しつぶされて、ジーラ河のほとりで半死半生で発見された。「人間じゃないの、怖い恐ろしいけものみたいな大きな・・・」と言い残してサリーは絶命し、更にはジーラ河へ釣りに出かけた譲治の祖父のボートも巨大な尾に襲われ粉微塵となり、祖父もまた帰らぬ人となった。

だが署長は怪物の話を本気にせず、譲治は殺されたジョーやサリーの仲間を集めてジーラ河の捜査を開始した。浚渫船で川底の泥をすくい、あるいは重油を流して火をつけ、ダイナマイトを投げ込んで爆発させたりもしたが、反応はなかった。そんなある夜、あの謎の老女が譲治の前に姿を現し、ジーラ・モンスターについて語りだした。

老女がまだ若かった頃、ジーラ河には恐竜よりもっと恐ろしい大とかげ、ジーラ・モンスターが棲んでいた。ジーラは毎夜川底から這い上がって住民を次々に襲い、恐れをなした人々は他国へ移住して、残ったのは自分ひとりだった。ジーラがモンテ・エスカルゴの山へ這い上がっていった夜、山は大爆発を起こしジーラの姿は消えたが、死んだのではなく火口近くの大鍾乳洞の地底湖にひそんで生きていた。今回の大噴火で地底湖が崩れてジーラが再び河へ出て来たのだった。

ジーラがモンテ・エスカルゴへ向かったと教えられた譲治は、仲間を集めて騎馬隊で山へ向かった。遂に対峙したジーラは凶暴な本性を表して、その鉄板のような巨大なうろこは猟銃の銃丸を弾き返し、矢も槍も効果はない。怒り狂ったジーラは巨大な後肢をふんばって、すっくと立ちはだかり炎を吐かんばかりの真っ赤な口を開いた。

そこへ武装保安官の一隊が到着し、数十本の燃えさかる松明が投げつけられたので、ジーラは向きを変えて頂上へ走った。譲治が投げつけた岩塊がジーラの眉間に命中し、ふいをくらった怪物は噴火口の中に転落していった。やがて夜が明け、ジーラ河は平和にた。

以上が物語の概要だ。香山の小説には異形の怪物がしばしば登場するが、この短編小説「ジーラ・モンスター」では、休火山の突然の爆発で棲み家を追われた恐竜よりも恐ろしい巨大なとかげの怪物が猛威を揮う。怪物の名前は実在するアメリカドクトカゲの英名、Gila・Monster からの連想だろうが、そちらの発音はギラ・モンスター。小説の怪物は架空の巨大なとかげであり、香山滋は名前の由来をジーラ河に生息する怪物と言う設定にしている。

インディアンの古老がジーラ・モンスターという名をつぶやく導入部は、「ゴジラ」で古株の漁師がゴジラの伝承を語る序盤を連想させる。水中に潜む謎の怪物が夜になると出現し、続々と犠牲者が増えて恐怖と謎が加速する展開部も両作品に共通している。そして巨大な後肢をふんばってすっくと立ちあがる恐竜のような大とかげが猟銃の弾丸すら弾き返すクライマックスは、そそり立つゴジラのイメージの源泉のように思える。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　週刊ゴジラをつくるより抜粋